「・・・・確かにセイに教えたのオレだけど・・・・」
「ほらね!!」

予想通りの反応に慎は一瞬口をつぐむが、負けてばっかりではいられないと口を開く。

「・・・・クリスマスは好きなヤツと過ごすもんだろ?」
「だからって晶志にはまだそういうのは早いの!わかるでしょ?」

すかさず反撃する玲の口調は先程の怒りを露わにしたものよりも大分落ち着き、子供に諭すような口調になっている。
もう怒っていないことに慎は少しだけ安堵した。

「・・・まぁ。でもクリスマスだし・・・。」
「何?家族4人で過ごしたくないって言うの?」
「違う。」

煮え切らない発言をしたわりには否定をはっきりさせる。
言葉少なな夫の好きなところは、『絶対譲れないもの』に対してははっきりと言うところだ。
『はっきり言うところ』と言うが、無口な彼は煮え切らない返事を返すのは妻にだけである。

「?違うなら、何?」
「・・・・・・・。」

玲ははっきり言って夫の今日の言動はよく解らなかった。
自分で言うのもなんだが、夫婦円満。
子供2人も仲が良いし、手もかからないし、可愛いし、自分たちに懐いてくれている。
クリスマスを家族で過ごすには何も問題はない。
職業柄休むのは難しい日だろうが、家族のためになんとか時間をやりくりしたいと思っているのに。 そんなことを思いながら、じ、と慎の反応を待つ。
彼はその視線から逃げるように顔をふ、と横に向けた。

「だから・・・・」

少しぶっきらぼうに慎は玲からの視線を避けたまま言った。

「・・・一番好きなヤツと一緒に過ごしたい日だろ・・・・。」

頬に少しの赤みがかったと感じたのは玲の気のせいではないだろう。
その言葉と、その反応から、玲はやっと慎が何を意味して言っているのかが分かった。
その途端、ボッと顔が熱くなる。

「・・・な、え、・・・それって・・・。」

妻がやっと自分の言わんとすることが分かった様子を見て、慎は両手で顔を覆った。

「嘘・・・・」
「ホント。」

顔から手をどけて今度はしっかりと玲を見る。
真っ赤になった妻を上から眺めた後、腰を少しかがめてのぞき込む。

「・・・イヤ?」
「え、いや、イヤじゃないけど・・・、え、あのでも」
(かわい・・・・)

両手で顔を挟んで困惑している玲を見れて、慎はかなり嬉しかった。

「セイが、ソウのこと一番好きだって言うから、教えてやったの。ちょうど良いかと思ったから。」


『パパ!ぼくねぼくね!!そうちゃんがいっちばんだーいスキなの!!』
『ママよりソウの方が好き?』
『うん!ぼくそうちゃんとケッコンするもん!!』


「オレの一番は玲だし、セイの一番は今のところはソウらしいし。 ただでさえ忙しくて毎日すれ違いも良いところなのに2人きりの時間は少ないし。 だから・・・」

先程の状態から、玲の目は少し潤み始めていた。
それさえも愛しくて愛しくて。
慎は玲のためにあると半ば本気で思っている腕を回して彼女をギュ、と抱きしめる。
玲はそれに応えるかのように、慎の身体に身を預ける。

「クリスマス、一緒に過ごしませんか。」

耳元で響く声が心地良い。
彼の歌っているときの声もかなり素敵なのだが、近くで聞く彼の声は自分だけの特別な音に聞こえる。

「喜んで。」

目尻が少し濡れてしまっていたが、彼女が以前から慎に見せていた特別の笑顔は今も変わらない。
久しぶりに見ることが出来たその笑顔に慎の顔も自然と緩む。





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