「晶志にあんなこと吹き込んだのアナタでしょ。」

自分の控え室で可愛らしいが中身は非常に子供らしくない話題で盛り上がっている自分の子供達を覗きながら、 大女優で名の知られる双美玲は隣にいる自分の夫を軽く睨んだ。
息子の晶志が教育上よからぬ知識を得る大抵の情報源はこの男だからだ。

「どっかで盗み聞きしたんじゃねぇの。」

人気ミュージシャンである双美慎は素知らぬ顔でそれに答える。
その答えを聞いても妻は疑いの目を向けることをやめなかった。
施設で共に育った15年、再会してからの6年で、すでに夫の行動はほぼ把握済みである。

「アナタ以外考えられないから言っているのよ。」

確かに夫婦、そして子役として最近活躍している晶志には、テレビ局という色々な大人がいる場所では 教育上よからぬ言葉を多々耳にしているだろう。
それだからこそ、自分と共に職場に来るときはそういった言葉を使う人達と遭遇しても極力聞かせないように 気をつけているつもりだし、自分のマネージャーから他のスタッフにも気を遣って貰っている。
それが自分の教育方針。
譲れないところであるからだ。

「盗み聞きしたにしてはずいぶんと詳しく意味まで理解しているじゃない?」

クリスマス、というイベントを今更わかりやすく誰かに解説する大人はそうそういるものではない。
盗み聞きをするにしても自分が仕事中の時は控え室を出ないように言っているし、たまにマネージャーを始めとする スタッフにも様子を見にいって貰っている。
自分の関係者も気を遣っている中で、クリスマスはサンタからプレゼントが貰える日という認識の子供に わざわざ聞かれもしないで解説する人間もいないだろう。
そうなるとしたら、該当者はかなり限られてくる。

「・・・・・・。」

慎は何も言わず疑り深い玲の顔をじ、と見つめる。
数秒間そのままで夫婦は見つめ合った。
周りから見れば大物夫婦がイチャイチャしてるようにしか見えず早足にそこから通り過ぎる。
そんな周囲の対応を余所に口を開いたのは玲からだった。

「グラサンしてるからってわからないと思ったらお間違いよ。」

す、と手を伸ばして半年前からかけ始め、いまやトレードマークになっているサングラスを顔から取り去る。
口はきりりと引き結んで、サングラスをかけていたので先程まではとてもまともに凛々しく格好良かったのだが、 目を隠していたものをとりさると、妻から居心地悪そうに目をそらしていたのがバレてかなり格好悪い。

「言い分は?今言わないと後から言ったって許さないわよ。」
「オレって決まってないだろ?」
「あぁそう。せいちゃーん!!パパからクリスマスのこと何か・・・・むご」
「・・・・・・」

大声を出した玲の口を慌てて押さえる。





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