わかっていたことだった。


避けることができよう筈もないと。


しかし早すぎる。


彼は内心の舌打ちを禁じえなかった。




「……フィーガル国王はなんと?」

王は玉座の上から跪く使者に声をかける。
内容は大方わかっている。しかしそれに対する答えの準備が不十分なのだ。
それほど新王妃の母国であるフィーガルの対応は早かった。
使者はおもむろに立ち上がり、己の君主から賜った言葉をつらつらと述べていく。

「申し上げます。フィーガル国国主であらせられますトリオト=フィーガル様は貴国との更なる結びつきを望んでおられます。 つきましてはフィーガル国第一王位継承者の正妃に貴国の姫君を、と。」


「……」


姫君。

あぁ、やはり。

「わ、我が国の王に姫君はおりませぬ!貴国の王は一体何を言ってみえるのやら………!!」

王の傍に控えていた宰相は慌てて口を開く。
内容を聞いた上で王の反応がないのもあるのだろう。動揺が口に出ている。
王にかわれたいつもの冷静さが掻き消えていた。

「それは失礼。急な事ゆえ先走りすぎました。言い方を誤ったようですな。
…しかしご記憶されよ。我が国の情報網を甘く見ぬほうがよい。」

口を出した宰相に使者は冷めた視線を向ける。
迫力に負けた宰相は口をつぐんだ。


「昨日の夕刻、この城に火急の贈り物・・・・・・が届けられたことも我が王は存じ上げております。 国王様がこれからどのように動かれるかわかりませぬが……、 アーガレット国とのより良い国交を希望される我が王のお言葉を、どうぞご配慮くださいますよう。」

これに我が王のお言葉が記されておりますゆえお納めを。
使者は書状を両手でささげ持つ。


「なるほど。フィーガル国王のご意志、しかと記憶しよう。」

書状を受け取らせ、使者に顔を上げるよう言い放つ。

「色好いお返事をお待ちしております。」

失礼します。と笑顔をひとつ残して使者は去った。
扉から離れていく靴音に玉座の間の緊張感は解かれる。
それと比例するように王の傍に控える国の重役たちの声は広がっていったのだった。





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