(・・・・夢)

慎はフと目を覚ました。
懐かしくて幸せな夢だった。
だからこそ、起きた瞬間に悪夢へと変わるユメ。

(もう、そんな時期か・・・・。)

ソファーに転がっていた身体を起こす。
少し肩が重いかもしれない。
部屋の空気の冷たさが少しこたえる。

(どおりで、寒いわけだな。)

日本のそれよりも冷たい。
もっとも、もうここに住んでから4年になるため少しは慣れてきたはずだ。
寒さが余計に感じるのは

(夢の所為・・・・かな。)

クッと自嘲気味に笑う。
こんな笑い方を身に付けたのはいつからだろう。
暗い部屋のなか、電気のスイッチを探す。
そこらに仕事関係のものが散らばっているため少し躓きそうになりながらも歩を進める。
ジジ・・・と微かな電子音をたてて部屋が明るくなった。

(・・・・掃除。ま、いっか。)

ものの場所は大体把握できているし、いじるとかえってわかりにくい。
ガリガリと頭を掻きながら冷蔵庫の中身を確認しにいく。
缶ビールを見つけてそれを手に、リビングに向かう。
テーブルの上に置いてある電話を何の気ナシに見てみると、留守電のランプがついている。
ソファに座り、プルタブを起こしてプシュッと言う音が部屋に響く。
今度の曲の譜に一通り目を通しながら、ビールを口に含む。
もう一口飲んでから、彼は留守録のボタンを押した。

『あぁ、俺だけど。久しぶり。』

留守録から流れた音声は久しぶりに聞く日本語。
彼は昔、自分のバンドのプロデューサーだった。
電話の相手を確認し、再び譜面を手に戻すと、今度はゆっくり確認していく。

『聞いてるよ。お前の活躍。アメリカでも結構ヒットとばしてるそうじゃないか。あの事件当時は、・・・・酷かったからな。』

口から飲み口を外して、譜面を見る目が電話に向けられた。

「・・・・」
『まぁ、いいんだ。今回いちいち電話したのはこんなコト言うためじゃないからな。実は今回、ある企画を立ち上げてな』
「・・・・・・・。」

録音された声を全て喋りきると、留守電のランプは消えた。
慎は録音が切れた後、一気にビールの残りを飲み干した。
そしてそのままテーブルを強く叩く。
知らずに力が入り、アルミと書いてある缶はぐしゃりとスリムになった。

「・・・・・・・・ックソ!」

彼は苦しそうに声をはき出す。
あんな夢を見たときに、こんな話が出てくるなんて。
バカらしくて、腹立たしい。
この思いを何とかして欲しい。
なんのためにアメリカに来たと思っているんだ。

(・・・・・そうか・・・・)

逃げてきたから。
だから。
慎は受話器を手に取る。

「・・・もしもし。慎ですけど。」
『あぁ!久しぶりだな!』
「留守電、聞きました。」
『そうか!で、返事は?』
「やらせてもらいます。」
『そーか!よかった!そーかそーか!!』
「それで、いつです?」
『あぁ、まずお前の都合を優先させるが、そうだな・・・・まず発表会見だけでも出て貰えると嬉しい。それからは年を越してからだ。』
「わかりました。会見は?」
『クリスマスだよ。12月25日。』
「そうですか。わかりました。23日にはそちらに着いているようにしますから。」
『忙しいところ悪いな。』
「いえ。それでは。」

がちゃん、と受話器を置いてソファに寄っかかる。

「・・・・ソウ・・・・セイ・・・・・リョウ・・・・・・」

まだ傷は癒えていない。
当然だ。
逃げてきただけなのだから。
自分だけ逃げて、彼らをおいてきた。
なんという愚かな父親だ。
それでも。

「・・・・玲・・・・・。」

キミが何よりの宝だったのに。

「・・・・・玲・・・・・。」

こんな生活をしているよ。
どうして怒りに来てくれないの。

「・・・・・玲・・・・・・。」

守ってくれてありがとう。
でも、キミが守ったものを守れなくてゴメン。


久しぶりに2人に会うんだ。


ゴメンネ。
アイシテルヨ・・・・。



『慎、私って一番の幸せ者よ!だってこんな素敵な旦那様と可愛い双子のオチビちゃん達に愛されてるんですもの!』




オレも一番の幸せ者だったんだよ。キミがいたから。